僕達の願い 第44話


暖かかった。
心の奥から、暖かいと思えた。
嘗ての時代で守れなかった人。
目の前でその命を終えた人。
彼に殺された、僕の最初の主。
その人が目の前で微笑んでいた。
あの頃と変わらぬ優しい少女。
その笑顔を見るだけで、僕も自然と笑顔になれた。
あの頃失ってしまった大切な物が、全てここにはある。
なんて幸せなのだろう。
キラキラと、辺りの景色まで輝いてみえる。
もう二度と手に入るはずのないものだった。
あの時代では、そうだった。
この名前も全て、世界に捧げ生きていた。
その事のほうが今は夢のようだった。
この暖かさを忘れ、氷のように冷めた生。
生きながら死んでいた。
でも今は違う。
主を生かすため、自分は生きなければならない。
主の幸せのため、自分も幸せにならなければいけない。
あの頃感じていた衝動は、何時の頃からか感じなくなった。
そう、全ては・・・

「・・・あれ?」

スザクは視線を隣りに座るユーフェミアから外し、遠くを見つめて眉を寄せた。

「どうしたんですか、スザク」

ベンチで並んで座っていたユーフェミアが首を傾げ、スザクが見ている方へ視線を向けた。視線の先、少し離れた場所にはテーブルと椅子が置かれており、コーネリアとクロヴィスが紅茶を飲み何やら話をしているのが見えた。
なにか気になることがあるのだろうか。
スザクは慌てたように立ち上がり、二人の方へ向かって駈け出していた。

「スザク、どうしたのですか?」

ユーフェミアが声をかけると、足を止めたスザクは冷静さを欠いた表情で振り返りこちらを見た。だが、二人の場所が気になるらしく、すぐにそちらに再び視線を向ける。何かあったのかしら?と、ユーフェミアも立ち上ったので、「ごめん、ユフィ」といった後、再び走りだした。




駆けて来る足音が聞こえ、コーネリアとクロヴィスは視線を向けた。そこにはこちらに駆け寄ってくるスザクと、ゆっくりと歩いてくるユーフェミアの姿が見えた。
白を基調とした騎士服を着ているスザクは、あの頃の、ユーフェミアの騎士だった頃を思い起こさせる。そんなスザクとユーフェミアが今再び共にいるのだ。懐かしいなと、コーネリアは思わず目を細めた。
スザクは15歳。あの時代で騎士となったのは今から2年後だが、あの時代では28歳になっているのだ。あの頃の年齢も足すなら年齢的にも問題はない。
何より今のスザクならば十分騎士となる資格はある。
一人の皇女と二人の皇帝に仕えた騎士など、後にも先にもこの男だけなのだから。

「コーネリア様、クロヴィス様、ルルーシュは!?」

予想通り、焦りと困惑に歪んだ顔で尋ねてきた。
スザクはすぐにルルーシュが使っていた車椅子に気づき、その大きな目をますます大きく見開いた。
この車椅子とルルーシュはセットでなければいけない。
歩けない彼の足なのだから。
それなのに、彼はここにいない。

「な、何で車椅子だけ?ルルーシュは何処ですか!何かあったんですか!?」

顔を青ざめ、辺りをキョロキョロと見回したスザクに、さてどう説明するべきだろうと、二人は眉を寄せた。

「私はな、クロヴィス。ルルーシュの考えは甘いと思うのだ」
「甘い、ですか」

ルルーシュ、という名前が出たことで、スザクはコーネリアの言葉に意識を向けた。

「そう、甘い」
「何の話ですかコーネリア様、それよりルルーシュは!?」
「スザク?落ち着きなさい、何を慌てているのですか?」

ようやく辿り着いたユーフェミアは不安げに眉を寄せ、スザクを落ち着かせようとしたが、スザクの顔色は悪くなる一方で、ユーフェミアの声は聞こえていないようだった。

「枢木、知っていたか?ルルーシュは2年前から立つことが出来たそうだ。今では走れるまでになったとか」
「・・・え?な、聞いてませんよ!?じゃあ、自分の足で動けるんですか!?」

知らないと、まるで迷子の子供のような表情でスザクは首を横に振った。
今だってこの場所に連れてきたのはスザクだ。
ルルーシュはいつも通り車椅子に座り、スザクが押してきたのだ。
・・・2年前。
そういえばその頃だ。
それまでは何かあったら困ると一緒のベッドで眠っていたのに、目も見えるし、手も動く。今日から一人で休みたいと文句を言い出し、スザクは寝室を追い出された。
いや、それだけではない。
彼の部屋に自由に立ち入ることもできなくなった。
それが出来るのはただ一人、C.C.だけ。
・・・リハビリをする姿を見られたくなかったから、ということか。
僕が抱き上げて運ぼうとすると、全身の毛を逆立てるように拒んでいたのは、足に筋肉がついてきていることを気づかせないためだったのか。
僕は28歳まであの時代にいた。
ルルーシュは18歳だった。
自分のほうが大人なのだし、思春期のルルーシュを下手に刺激するのも悪いかと、少しの間我慢しようと遠慮したのが間違いだった。
この時代に来て少しは素直になったと思ったのに、彼はこんな形で自分に嘘をつき続けていたのだ。結局、君は嘘ばかりなのか。君は僕に平気で嘘を吐く。

ざわりと心が騒いだ。

「顔を含め、全ての傷が消えた。もうあの子の体には何も問題はないようだな」

ざわざわと焦燥感だけが募っていく。

あの酷かった傷も、もう残っていない?
目、手、足、傷。
ルルーシュを縛っていた枷が全て外れていた。
それは、彼が自由に行動できるということ。
今まで以上に、自由に。

「あの子はジェレミアをクロヴィスに返したよ。そして枢木、お前を再びユフィの騎士にと言っていた」
「・・・え?」

スザクは呆然と呟いた。
僕を、ユフィの騎士に?
何を言っているんだ。
だって、僕は。
驚きで固まっていると、ユーフェミアは、そうでした。と笑顔で言った。

「今はまだ私の騎士ではありませんでした。スザク、叙任式はいつがいいかしら?」

スザクはのろのろとした動作で、ニコニコ笑顔のユーフェミアを見た。
そう、彼女の中では、スザクはずっと自分の騎士だったのだ。
自分は彼女の騎士だった。
それを忘れていたわけではない。
だけど。

「やっぱり以前と同じ日がいいかしら?」

ニコニコと、明るい笑顔で楽しげに話される言葉に、僕は頭を振った。

「ですが、僕はルルーシュの」
「確かに枢木は皇帝となったルルーシュの唯一の騎士となったが、あれは契約上の、演技なのだろう?父上の時は日本を取り戻すためだ。お前が主としていたのはユーフェミアただ一人だと、皆知っているから安心するといい」

スザクの言葉を遮り、コーネリアはすっと目を細めそう告げた。

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